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2025-06-07

大野製炭工場を見学しました

5月10日〜11日に能登半島・珠洲市で行われたゼミ合宿。2日目は、菊炭職人の大野さんを訪ね、工房や植林地をご案内いただきました。

菊炭職人として、地域の自然環境や過疎化の問題に多方面から取り組む大野さんのお話には、この土地やそこに暮らす人々への切実な思いが込められていました。普段目にすることのない炭焼き窯を見せていただいたり、視界いっぱいに広がる自然の中で心地よい風を感じながら過ごす時間は、特別な体験でした。

見学会レポ

先代が倒れられたことをきっかけに、周囲の方々から「継がないのか」と背中を押され、炭焼きを継ぐことを決意された大野さん。炭焼きで生き残るため、茶道で用いられる高級木炭「菊炭」の生産に挑戦されました。
2004年からは、耕作放棄地を開拓して、炭の原料となるクヌギの植林を開始。痩せた土壌を整え、COPが掲げる生物多様性の育成にもつながる活動を続けてこられました。
何年もの時間とお金をかけながら、植林と炭造りの循環がようやく軌道に乗り始めた矢先、2024年の能登半島地震とその後の土砂災害が発生。炭焼き窯は崩落し、工房の再建も目処が立たず、植林地も被害を受け、これまで築いてきた基盤が大きく打撃を受けたことを知りました。
また、大野さんは炭焼き職人としてだけでなく、珠洲で育った者として、地域と深く関わり、さまざまな活動をされてきたそうです。たとえば、クヌギの植林体験やクワガタ採り体験を開催し、釜への火入れを祭事として火おこしや火の継承祭りを行うなど、地域に根ざした活動を続けてこられたそうです。
大野さんが語る未来の構想として、「炭焼きビレッジ構想」があります。これは、炭焼きを軸にした産業で過疎化に立ち向かい、地域を支える循環型の仕組みをつくろうというものです。しかし、被災によってこれまで築いてきた菊炭の基盤が崩れてしまった今も、必死に生き続ける大野さんの姿に強い衝撃を受けました。

見学をした学生に感想頂きました!

学生1
珠洲の炭焼きは、職人の減少や能登半島地震の影響もあり、今もなお十分な生産環境が整っているとは言えません。そんな中でも、大野さんはこの技術を「まちの産業」として残していくために、日々尽力されていました。
工房で毎年行われている「火の継承の祭事」には、珠洲の伝統を次の世代へとつなげていくための「意味」や「価値」も込められていることを知り、大野さんの熱い想いが伝わってきました。
また山林では、炭の原料となる木材の生産だけでなく、生物多様性の保全にもつながっていくことから、大野さんご自身がこの土地で暮らす意義について考え続けている姿に深く感銘を受けました。
大野さん、貴重なお話と体験を本当にありがとうございました。

学生2
能登半島地震により先代が自ら造られた炭焼き窯が崩落してしまった様子や、当日崩落の隙間から火柱が上がり延焼を防ぐために必死で対処されたお話を伺い、震災がいかに大きな影響を及ぼしたかを改めて実感しました。
そのような困難の中でも工房の復活に向けて試行錯誤を重ねられていることや、祭事を通じて町を盛り上げようとする取り組みから、珠洲の未来を思う強い気持ちが伝わってきました。
またくぬぎの植林地では、炭の材料としての利用にとどまらず、CO₂排出の抑制や、生物多様性の確保、さらにはカブトムシ採取を通じた観光資源としての活用など、地域にとどまらず地球環境への幅広い貢献に感銘を受けました。
お忙しい中、貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

「ここで生まれ、育ってきた」

震災や社会問題に直面する珠洲で、それでも「ここで生きること」に誇りを持って挑み続ける大野さんの姿には、たくさんの「なぜ」と真摯に向き合ってきたからこそ生まれる責任感と強かさ、そして包容力を感じました。そして、その働きかけの先には、地域やここに暮らす人たちを守っていこうとする優しさと信念があるのだと思います。

見学を通して、地域産業の視点から震災が与えた影響を解像度高く見つめることができました。この地で、菊炭で、命をつないでいく営みが、大小さまざまなスケールでの活動へと広がっている姿を目の当たりにすることができました。大野さんの活動や直面する問題は、地域だけでなく社会全体の課題とも深くつながっていることを学び、暮らしの営みを現場から捉え直す貴重な機会となりました。たくさんの貴重なお話、本当にありがとうございました!

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